物語のある家づくり
Stories
ものを売るだけでなく、ものづくりの背景も伝えたい
1938年に創業した刃物屋の三代目として、技術の伝承はもちろん、魅力ある店づくりも追求する吉田和弘さん。「ものを売るだけではなく、ものづくりに携わる『ひと』、背景にある『こと』についても広く伝え、関市の魅力を国内外へ発信していきたい」と宮部建設に店舗改装を依頼しました。
「ぱっと見ただけでは、何の店なのかわからないような感じにしたいという思いがありました」と吉田さん。
富山にある鋳物メーカー・能作の複合施設をはじめ、代官山のTSUTAYA、世界でここにしかない特別な場と仕掛けをコンセプトにするギンザシックス…。空間づくりに個性が光スポットへ足を運び、イメージを膨らませたそう。そこで撮った写真やインスピレーションを得た専門誌を見せながら、 刃物屋三秀の改装イメージを伝えました。
見た目、予算、使うシーンを考えて素材を選ぶ
「要望をすべて鵜呑みにするのではなく、ここはお金をかけなくてもいいなど、はっきり言ってくれたので信頼できました。他の工務店だったら、もっと予算が膨れ上がっていたかもしれません」と吉田さん。
内装にどんな材質を使うかといった細かな部分についても、打ち合わせの段階で固まり、施工が始まってから変更したことは何ひとつなかったと言います。
吉田さんがいちばん気に入っているのは、刃物研ぎの実演やワークショップの場として設けた一枚板のカウンターです。天板には樹齢200年の長良杉を使用。囲い部分は温かみを感じさせる独特な風合いの大谷石に。床は天然石に見えますが、実はプラスチックでできたタイルです。
「床も石にしたかったけれど、かなりの予算がかかるということで宮部さんが提案してくれました。こちらの方が掃除もしやすいなど、利用シーンを考えてアドバイスしてくれましたね。和紙のような壁紙も、金箔もすべてクロスです。イメージに合うものを探すのは大変だったと思います」。
見学や体験を通して関市の伝統を体感できる場所に
店内を明るく、広く見せることも改装でこだわったポイントでした。それを叶えるため、建物の前面はガラス、仕切りは耐久性の高い透明アクリルに。営業中は常に自然光が差し込むつくりです。
「どんな場所でどのように刀をつくっているのか見せたい」と、入り口横には、国内の民間施設では初となる日本刀鍛錬場を設置。事前に予約すれば、刀匠による鍛錬の見学や、加熱した玉鋼の塊を叩く体験ができます。
刃物づくりの工程を紹介するギャラリーの奥に畳スペースを設け、床の間のように四季折々のしつらえを楽しめる空間にしたのもこだわりです。
「畳スペースに炉が切ってあり、お茶を点てておもてなしできます」と吉田さん。京都の漢字ミュージアムや岡山の備前長船刀剣博物館を見学して思いついたアイデアを形にしました。
「日本刀の伝統技法と、玉鋼から刃物になるまでの製造工程を見せるギャラリー、製品の直売スペースを一体化して、関市が誇る刃物産業をよりわかりやすく伝えることが一番の目的でした。フレキシブルに使えて何十年経っても飽きない、本当にいい空聞ができたことに感謝しています」。
関市全体に経済効果が生まれる拠点を目指して
体感型施設へリニューアルするにあたり、地元のみなさんの協力も欠かせなかったという吉田さん。
「三秀を通じて、地域にも経済効果が生まれるような仕組みをつくりたい」と、関市でものづくりを行う杉山製作所の什器をディスプレイで使ったり。包丁専門メーカーのマサヒロや爪切りの匠グリーンベルの刃物を例に、製造工程を紹介したりしています。
「遠方からのお客様を案内する時、『この地域は刃物が有名ですよ』と言って三秀へ寄ってもらい、『ディスプレイされているのはうちの製品です』と説明してもらえば、ビジネスに広がりが出ると思うんです」と吉田さん。
自社ブランドの製品に限らず、関市で製造するさまざまな刃物を三秀で直売しているのもそういった理由からだそう。
「ギャラリーを見て、いろいろな体験をすると1時間はかかります。ここでの滞在時間を増やすことによって、観光客が地元の飲食店を利用する機会も増えることを期待しています」とのこと。
リニューアルで生まれ変わった「三秀」は、関市の観光ハブとしての役割も担っています。
関刃物ミュージアム・刃物屋三秀